11.1
私は学生時代に縁あって青山の田中さんという楽器屋さんに巡り会いました。田中さんの所にはその当時、色々なソリストやオーケストラ・プレーヤーが出入りされていました。私もその田中さんのおかげで色々な方に巡り会いました。当時は夕方になると田中さんから電話があり、それから青山まで出かけていく事がよくありました。はじめはヴァイオリンを弾いたり聴いたりしているのですが、そのうち湯飲みで酒を飲むコースに入っていきました。近くの飲み屋に出かけていく事も何回もありました。とても楽しい思い出です。
そして田中さんに行くようになってから、弦は基本的にOlive-endになりました。(基本的にというのは、E線は色々な弦を使ったからです。その当時からOliveはありましたから、40年以上前からこの弦は輸入されています。)当時は色々なメーカーがガット弦を作っていましたが(当時はKaplanとかWondertoneという弦もありました。私たちの年代にはとても懐かしい名前です。Kaplanは今ではギター弦のメーカーに吸収されて、E線だけが残っています。その昔のKaplanのA線Deluxeは良い音でした。)、今ではガット弦はほぼPirastroしか作っていません。
Pirastroには2つのラインがあり、1つはEudoxa、もう1つはOliveです。私が使っているのはOliveですが、特にG線のゲージが全体の音のバランスにすごく影響します。G線は田中さんの頃からRigidの16 3/4を使ってきました。この16 3/4は特注だそうで、普通は15 1/2〜16 1/2が売られています。Rigidでない弦は15 1/4〜16 1/4です。
昔は更に太い17という物もありましたが、今では作られていません。私も一度この17を試しましたが、私には強過ぎました。
Rigidと普通の弦の違いはどこにあるかというと、Rigidは硬巻きですから弦の振動の巾が普通巻きの弦に比べて小さいので、音が締まってきます。Rigidでない太い弦は音がぼける傾向があります。つまりRigidの太い弦は「ズシーン」という感じの締まった音が特徴です。ただ良い事だけではありません。その点については最後に書きました。
私は16 3/4をやめて16 1/2にしたのですが、このわずか1/4の違いでもかなり音と反応は違います。これが16 1/4になると、さすがに手応えが弱すぎました。それにしてもOliveのG線はとても高くて、気楽に試せる金額ではありません。ユーロが下がってきたので、これからは少しは安くなるのかな?
ただこのゲージの問題は楽器や弓によって、更には弾き手によってすごく音が変わります。ここに書いているのは私の楽器と弓の場合の話です。ですから他の方の場合には同じゲージでもまるで違う結果が出るかもしれません。ただゲージがほんの少し変わるだけで、奏法にはとても大きな影響があります。弦の種類だけでなく、太さにも関心を持って試してみる事を強くお奨めします。新しい発見があると思います。
ボリュームを出したい時は弦が反応してくれる範囲内であれば、太い弦の方が良い音が出てきます。ですがRigidの太い弦は張りがとにかく強いので、スピッカート系のボーイングはとてもコントロールが難しいです。また柔らかい音の発音も気を遣わされます。このボリューム感とボーイングの融通性をバランスにかけて、今の私の環境と状態では16 1/2の方が望ましい反応を示してくれたので、こちらに乗り換えたわけです。弾き手はいつも自分を最上に表現してくれる道具を求めています。道具が自分に合わないと、その道具が自分の足を引っ張ってしまう事があるからです。
この話は最後はオーディオの話と同じ側面を持っています。でも今日はここでお終い・・・・(笑) |