オーディオの小道 番外編 


オーディオの小道 番外編

オーディオの小道では私のオーディオについての感じ方をまとめてご紹介しましたが、ここでは思いつくままに色々のトピックスについて書きます。本論のオーディオの小道はこちら

番外編

 

 

 第1回:QUAD

 第6回:私達の求める音

 第11回:新しい世界へ

 第2回:LP12

 第7回:毎日少しずつ

 

 第3回:境界

 第8回:組み合わせの妙

 

 第4回:部屋の響き

 第9回:今までを振り返って

 

 第5回:Autograph

 第10回:自分の耳で


第1回:QUAD

 QUADとは皆さんよくご存知のイギリスのメーカーです。ここではメーカーについてではなくその名前QUADについて書きます。QUADはQuality Unit Amplifier Domesticの頭文字をとったものです。私は「山椒は小粒でピリリと辛い」この名前、特にDomesticがすごく気に入っています。普段の生活の場で最上の音楽を聴くというこの割り切りが気に入ったのです。
 私が最初にQUADを手に入れた時スピーカーもESLにしたかったのですが、当時の私にはいささか手強い値段でした。そこで大型ブックシェルフの中からTANNOYのDevonを選び出したのです。 プレーヤーも同じ路線でLINNのLP12を選びました。後で手に入れたCDプレーヤーも同じ路線でMERIDIANの207IIを選びました。というように私の初期のステレオはこのQUADという考えが基本になっています。

 今ではQUADのメインとプリは使わなくなってしまいましたが、今でもその理念は受け継いでいます。まず2階のリビングの方はスピーカーStirling、メインアンプSV-501 SE、レコードプレーヤーRegaのPLANAR 25がその路線です。1階はレコードプレーヤーLP12(+ORTOFON Kontrapunkt b+SME 3009+ORTOFON T-1000)、スピーカーDevonがそれです。
 今の流行りのステレオは何か1つだけで何百万という音がついています。そんな高い物でなくても充分生の雰囲気を味わえるシステムが欲しいというのが私の夢です。今は1階のシステムが私が手に入れた値段で170万位、2階のシステムが100万位です。Domesticという値段ではないという声が聞こえてきますが、私の願う音を妥協せずに出そうとするとやはりこれ位はかかってしまいます。これを出来るだけ手軽に手に入れるようにするのがドメスティック・オーディオだと思いますが、たしかにこれは難問です。
 でも例えばアンプはいまだに聴くと新鮮な驚きに襲われるエレキットの6BM8のシングルアンプTU-870、そしてとてもよく音がまとまっているALR JordanのEntry S(今はSiになっています。)を組み合わせた物が私は入門というだけでは勿体ない位のシステムだと思っています。これに手持ちのCDプレーヤーにModel2というDACを組み合わせると15万位でシステムが出来上がります。
 これで自分の希望の音がハッキリ見えてきたらまずスピーカー、次に入口のCDプレーヤーに良い物を、更にプリアンプを足してメインを良い物に替えていくのが良いやり方ではないかと思っています。

 色々やってみてつくづく思うのはどういう音が良い音かが分かっていないと迷路にハマってしまうという事です。やはり生の音を聴いた蓄積が物を言うのです。私達から見ればそれは当然です。日々演奏をしながら名指揮者や名ソリストの名演に触れて得た音楽的経験があるからこそ私は良い音が出せるのです。どう弾いたら良い音が出るのかと同時に、どう弾いたら悪い音になってしまうのかが分かる事もとても大切です。とにかく自分が触れられる最良の生の音に出来るだけ触れる事こそが良い音を手に入れる為の最短の道です。人が手間と時間をかけてやっと手に入れた物を、鼻薬一発で手に入れるのは無理なのです。 Topへ

第2回:LP12

 今までアナログプレーヤーについてはあまり書きませんでしたが、それについて少し書きます。
 私は最初にステレオを買った時にはスピーカーはTANNOYのDevon、アンプはQUADの33と303でしたがその当時のメインのソースレコードプレーヤーは国産のプレーヤーとカートリッジを使っていました。当時のもう1つのソースFMチューナーはTRIOのKT-8000でした。ですがしばらく聴いているうちにもっと良い音を聴きたくなりました。当時ガラード301とか401にオルトフォンのアームを付けてSPUシリーズを使うというケースが多かったのですが、私は当時の新しいMCシリーズを使いました。そのため当時新しく出たLINNのLP12にSMEの3009-Rというアームを付け、MCシリーズのカートリッジ+T20MkIIというトランスを買ったのです。今となってはハッキリ覚えていないのですが、MC10、MC20、MC30と順に使ったと思います。
 1回のレッスン室が出来てリビングとレッスン室の両方にステレオを置くようになってから、Kontrapunktシリーズを使い始めました。今ではリビングはKontrapunkt a、レッスン室はKontrapunkt bを使っています。そして去年結局トランスもT-1000にしました。Jubileeにするとどうなるのかは実はまだマトモに聴いた事はありません。

  このLP12はターンテーブルが独特のフローティング・システムをとっています。ハウリングマージンが高いという良い点はありますが、家の中の移動はともかく引っ越しの時が問題なのです。今から5年ほど前にオーバーホールをしてもらったのですが、最初は自分で大事に持っていかないと行けないという話でした。ところが自宅からメーカーへ、そしてメーカーから自宅へ持ってきてくれるサービスを仲介してくれるところが見つかりました。20年近く使っていたのですから色々問題があったようですが、このオーバーホールで解決しました。

 現状では特にアナログの再生に不満はないのですが、これも聴き込んでいくうちに色々注文は出てくるのでしょう。たしかにオーケストラ、それも大編成のオーケストラの再生には注文がない訳ではありません。これがカートリッジの交換で解決するのか別の要素があるのかは分かりません。例えば前に使っていたT-20 MkIIの場合とてもノイズを引き易いのです。またアースが浮いていると盛大にノイズが出ます。(これはT-1000についても同様です。)こういうちょっとした問題もあるので、気がついた時にはその問題を徹底的に追いつめないといけません。
 CDのようなディジタルと較べて、アナログは色々な部分で音が変わります。アームに関する調整もたくさんの要素がありますし、MC型の場合はトランスやアンプで音がすごく変わります。 トランスの場合はその後に来るEQ部の音が大切ですし、ヘッドアンプの場合はノイズの管理が難しいでしょう。

 こういう難問の数々を解決して聴くレコードの音はCDと聴き較べると更に一段と説得力があります。CDしか持っていない方は経験出来ないでしょうが、レコードを持っていらっしゃる方は是非とも良い状態でレコードを聴いてみて下さい。多分レコードを見直されると思いますよ。 Topへ

第3回:境界

 今回は良い音と良くない音の境界について書きます。
 演奏の場合例えば音程を合わせる事について言うと、音程が合って聞こえるための条件は決して全部の音が合っている事ではないのです。音程が合ってよく響いた状態をキープ出来れば良いのです。
 ある音を出してそれがよく響いたとします。楽器は全体によく響くモードで振動している訳です。そこで次の音を弾きます。これも合っていれば更にこの良いモードは続きます。問題は音程が外れた時です。それまでずっと良い響きのモードで来ているとちょっと位外れていても今までの良いモードに引っ張られて続けて良い音で鳴ってしまいます。でも更に続けて外れるとさすがに今までの良いモードはリセットされてしまいます。つまり外れるにしてもそれを最小限で食い止められるかどうかで結果は大きく違うのです。
 同じような事は右手の弓のスピードと圧力の関係についても言えます。右手については大体は押し潰してしまっているケースが多いのですが........

 オーディオについても同じような事が言えるのではないかと思うのです。
 オーディオの良い状態というのは点ではないのです。ですから私はSweet SpotではなくSweet Bandだと書いたのです。その許容範囲というのは初めに想像しているよりかなり大きいものです。ただその範囲のありかが皆さんが言葉で理解して想像されているのとはいささか違う方向にあるのです。
 私も最初こちらが目的地だろうと想像して進んで行ったのですが、ある所から何を変えてもあまり変わらない状態に入ってしまいました。私はその状態に陥ってしばらくオーディオに対する興味が足踏み状態になりました。CD1枚も集中して聴けない情けないオーディオに我慢しつつ、勉強のため仕方なく聴いていました。でもそんな状態で聴いているのではイマジネーションなど広がるはずがありません。

 それを一気に打ち破ってくれたのがN響の同僚横山さんが貸してくれたオモチャのようなエレキットのTU-870(6BM8のシングルアンプ2W+2W)でした。それまで使っていたTRのプッシュプルアンプでは絶対に1枚でも続けて聴けなかったCDを、何枚でも続けて聴けたのです。この時の状態はこの良い音と良くない音の境界をいっぺんに飛び越えてしまったのでしょう。それは2001年の5月末の事です。横山さんは私にとって救いの神であった訳です。この一件がなければ今の私のオーディオ環境は一切ない訳ですから。
  今から思うとこの時急にSweet Bandのど真ん中に放り出されてしまったのでした。こうなると今までの経験はあまり役に立たず、一からやり直しになってしまいました。そこで普段N響で聞く音を頼りに四苦八苦してやっと4年半たって今の音に辿り着きました。
 今までの自分の経験から皆さんに是非とも分かって頂きたいのが、何をやっても変わらない状態になっているという事は困った事であると同時にジャンプのチャンスでもあるという事です。そのチャンスは2つあります。
  ◎1つは自分で自分の環境を思い切り替えてみる事です。これは自分にとって絶対だと思える事も一度壊してみる事です。私の場合について言うとこれは1階と2階のスピーカーを替えた事がそれにあたります。
  ◎もう1つは外からの刺激です。これには色々な物があり、誰かが奨めている物を試してみるとか、他のオーディオ仲間の音を聴いて見るとか逆に自分の音を聴いてもらう事はとても大きな効果が期待出来ます。というのは自分という視点から一旦は離れる事を強いられるからです。私も横山さんの助けを借りて泥沼から抜けられたのです。もしあの時TU-870を聴いていなかったら今どうなっていたのでしょう。いずれは真空管アンプに目覚める時があったかもしれませんが、こんなに早く音がまとまる事は絶対になかったでしょう。
  また大橋さんが毎日書かれているひとりごともとても参考になるお話が多いです。Devonを高いスタンドに上げるようになったのはその典型的例です。色々な方のオーディオ遍歴を見ての経験から書かれている事はとても参考になります。大橋さんのようにたくさんの例をご覧になっていると、一聴にしてその人の好みや音楽感、音楽的レベルが理屈ではなく自然にハッキリ見て取れてしまうのです。そういう方の感想はとても貴重です。
  人の助けは借りてみるものです。(人のアドバイスもとにかく一度は聞いてみましょう。役に立たなければあとで黙って捨てれば良いのです。何か得る所があればこんなにありがたい事はない訳ですから。ただし相手は厳選して.......)

 演奏もオーディオもその遍歴の道筋は平坦ではないのです。不思議な事に目的地に近くなると急に足取りが重くなるものなのです。最初は全体の方向性が良ければOKですが、目的地が近くなればなるほど細かい事まで気になるので当然足取りは重くなるものです。逆に言うと足取りが重くならないようではまだ目的地は遠いという事かもしれませんね。皆さんきっとこの状態で苦労されているのだと思います。なかなか難しい事であるとは思いますが、そういう時こそ今までの自分の殻を思いきり打ち破ってみる事を私は心からお奨めします。きっと大発見が出来ますよ! Topへ

第4回:部屋の響き

 自分のレッスン室、防音室、リビングで楽器を弾いたりステレオを聴いたりした経験をまとめてみます。ピアノの音がうるさいという隣からの苦情で今から11年前防音室を作りましたが、部屋の中の響きをどうするかで悩みました。施工業者は天井を反射2に対して吸音1の割合にした方が良いと言っていたのですが、ちょっと試した結果からこちらは反射1に対して吸音2の割合にして欲しいと希望を出しました。ところが永年使っていくうちにこの部屋は響きがなさ過ぎてつまらない音になっている事に気付き、結局反射2吸音1の割合にしました。
 この事からも分かるようにステレオを置く部屋は基本的にライブにしておいて、色々な家具調度品を入れると最初は響き過ぎていたものが落ち着いてくるのです。デッドにし過ぎると聴いていて気持ちがワクワクして来ないのです。本棚とかCDのラックとかは部屋の響きをとてもよく調整してくれます。
 これは練習する時にも言える事で、響かない部屋で練習していると音を無理に出す癖がついてしまいます。響かない状態でよく響くホールを想定して練習する事など出来ないです。基本的にライブな部屋にしておいて、何かを置いて鳴き竜などが起こらないようにしてやる方が良いのです。
 ステレオを置く部屋もあまり吸音し過ぎない方が演奏者の雰囲気が浮かび上がって聴いて楽しいです。部屋を出来るだけライブにしておいて、弊害のある場合だけその響きを拡散させてやるのが良いのではないでしょうか?(鳴き竜も吸音するのではなく拡散してやれば良いと思います。) Topへ

第5回:Autograph

 サンバレーの大橋さんのお宅でAutographを聴かせて頂いて色々な事を感じたのですが、その時は頭の中の整理がつきませんでした。やっと整理がついたのでそれについて書きます。

 Autographというスピーカーは日本では本来の姿を知るのがとても難しいスピーカーです。Autographはコーナー型のスピーカーである事は勿論ご存知だと思います。コーナー型が本領を発揮するためには側面と後方の壁がしっかりしていて共振などしないできちんと音を聴き手に返せるようでなければいけないのです。これは日本の住宅事情では実現が難しいものです。日本の住宅事情では隣の家に対しての遮音の方が室内の音響より優先してしまうのです。更にどの住宅メーカーも遮音というとグラスウールをたくさん壁の中に入れれば良いと思っているのです。遮音はとにかく外の構造体と内の構造体の接続を切らなければ出来ないのです。つまり部屋の中に部屋を作るのです。(全てが2重になっていないといけないのです。)1ヶ所でも手抜きをすると音は筒抜けになるのです。
 10畳以上の部屋を作る時に日本では8畳間2間とか8畳+6畳として作られ、奥行きは長いのですが横は2間という場合がほとんどです。そうするとAutographをコーナーに置くとスイートスポットはスピーカーのごく近くの1点に来てしまうのです。3:2位の比率の部屋のコーナーに置くのがスイートスポットを広くするのに役立つと思います。(長辺にAutographを置く方が良いでしょう。)
 大橋さんのAutographを聴いていても、部屋の奥で聴く音とこの三角形の頂点で聴く音は全くの別物です。この頂点の音の聴ける範囲をどうやって広く取るかが勝負のような感想を持ちました。その為には定在波は勿論消さなければいけませんが、部屋の中で音をよく響かせてやりたいです。

 スピーカーはそれぞれ想定している置き場があり、それをちゃんと理解した上で聴くのでなければその本領は分りません。例えばStirlingについて音の切れが良くないと思っている人が多いようですが、私に言わせればそれはセッティングが悪いのです。
 このStirlingのセッティングは色々な要素が絡み合って簡単には言えませんが、とにかく聴き手の方に出来るだけ音を向けてやるのが良いです。何と言っても音離れを良くする事が大切です。(といってもその意味を誤解される事がとても心配です。文字で読んで全てが分かるほどオーディオは単純でないからこそ面白いのです。同じ言葉を使っていても実際は人によって言っている事が違うのが現実です。) Topへ 

第6回:私達の求める音

 今回は私達演奏する者の求める音についてお話します。私達が求めるのはとにかく自然な音です。そしてその音に包まれて幸せに感じられる事こそが願いなのです。勿論細かい特性も気にはなりますし問題にしますが、一番大事なのは音の生命力です。生命力のない音はどんなに特性が良くても聴いて感動しないのです。だからこそ大昔の特性の良くないはずのSPの復刻版を聴いて感動出来るのです。
 レコード(アナログ)全盛の頃の録音は演奏の全体像を伝える事を大切にしていました。つまり生の演奏を聴いた時の感動を大事にしていたのです。ところがハードの性能が上がるに従ってオーディオ界は松やにの飛ぶような音とか各楽器の分離とか演奏家が求めているのとは正反対の方向に進んで行きました。今となっては演奏家はより良いステレオを欲しいと思ってもなかなかそういうステレオに巡り合えなくなってしまいました。残念ながらオーディオ界は迷路に入ってしまったようです。
 でもまだ本当に良い物は捜せばまだ手に入ります。ですからまだ本当のオーディオは死滅した訳ではありません。安くても質の良い音楽を聞かせてくれる物はまだまだたくさんあります。まだオーディオに夢を託して頑張っている人たちはたくさんいるのです。時間はかかってもそのように頑張っている所はいずれ正当に評価される時が来るでしょう。本当に良い物はいずれは人の心を動かすからです。

 私がいつも不思議に思うのは、皆さん車を選ぶ時にはあまり人の意見に影響されないのにステレオを選ぶ時には不思議と他人の評価を気にするのです。どうして車を選ぶように自分の信じる事を貫かないのでしょう。
  多分どういう音が良いのかが分らないからでしょう。どういう車が良いのかが分らないのに何百万もの車を買う人はいないのに、ステレオの場合にはそういう物を次から次へと買い替えるという不思議な事が起こっています。今のオーディオのマスコミはそういう人達を対象にしているようにしか見えません。(何百万もする新製品ばかり特集して一体どんな意味があるのですか?誰がそんな物を買うのですか?)ごく普通の神経のリーズナブルな値段でそれなりの音楽が聴けるステレオなど相手にされていません。今のオーディオ界は1人の人から出来るだけ絞り取ろうと客単価をあげる事しか考えていません。パイを拡げる努力などほとんど見えてきません。年に一度や二度のフェアだけではなく、普段の活動を通してパイを拡げなければいけないのです。 Topへ

第7回:毎日少しずつ

今年(2006年)こそ毎日必ず1階のSV-310+SV-91B+Devonも電源を入れて気持ち良く音を鳴らしてやろうと心に決めました。楽器も毎日鳴らしてやらないと良い音は出てきませんが、ステレオもこなれた音が出てくるまでには最低でも30分はかかります。その中でその日の音の鳴り方を確認して、また自分の体調と感覚を再確認すると最低でも1時間位は経ってしまうものです。
  同じ事は楽器についても言え、最低でも30分は毎日弾かないと現状維持でさえも出来ません。演奏する時は自分で弾くだけでなく人の演奏を聴く事が一番の勉強になります。オーディオも同じで人の出す音を聴く事がとても大切です。自分で何も考えずにただ弾いていると、耳を悪くするだけの練習になってしまいます。自分の音を冷静に聴けるだけの経験と知識と心の余裕を持てる事が大事だといつも自分に言い聞かせています。音は自分の耳で聴かなければ分りません。それも音その物を言葉に翻訳しないで理解出来なければ意味がありません。なぜなら言葉に直してしまうとその翻訳者の考えや語彙力によって実像がねじ曲げられてしまうからです。ですから私はCDを買う時に雑誌の批評など読みません。勿論買って失敗したと思う物はありますが、それが良い勉強材料になるのです。
 演奏の場合は時間が充分にとれない時は少しずつでも毎日楽器に触る事が大切で、 毎日10分でも触る方が1週間分まとめて1時間やるより遥かに効果が上がります。(1週間触られないでいた楽器が突然弾かれてもちゃんと音は出ません。弾かれていない楽器からちゃんと音が出るようになるには最低でも1時間位はかかります。毎日10分では少ないのですが、それでも全然弾かないよりははるかにマシなのです。)ステレオも毎日少しでも音を出した方がたまにまとめて聴くよりはるかに状態は良いものです。この事は演奏旅行から帰って久し振りにステレオを聴いた時に毎回身をもって経験しています。病気でしばらく寝ていた後久し振りに楽器を弾いた場合も同じです。
  最初は音の出方が渋いのです。それが段々こなれてきて、しばらくして本来の音の出方になった時のうれしさは喩えようもありません。自分の装置の持つ本来の音をまず掴み、それからその本来の音が日によってどの位の巾を持っているのかまで掴まないといけません。その巾は装置(楽器)と同時に自分自身の揺らぎでもある訳です。自分が絶対などと思っているうちは音は自分の方に寄ってきてくれません。
 車についても同様に週1しか乗らないような車は本来の姿を発揮出来ていません。ところがそういう人ほど車について雄弁なのです。普段街を運転するのにどこかのコースを走った時のデータなど何の役にも立ちません。0〜400mや0〜100kmが何秒でも公道を運転する時には安全に走る事の方がはるかに大切なのです。そんな事より自分の車が自分の思った通りに動くようになる事の方がはるかに運転していて意味があります。ステレオも同じでスペックを調べるより、毎日それに触れて器械を馴染ませると同時に自分も馴染ませる事の方がはるかに安上がりに自分の思った音に近づけるというものです。 Topへ

第8回:組み合わせの妙

 今回は組み合わせの難しさについて書きます。ステレオは入力から出口までおおまかに分けて3つないし4つの段階があります。まずCDプレーヤーやレコードプレーヤー、FMチューナーのような入力機器です。次がプリアンプ、そしてメインアンプ、最後にスピーカーという訳です。プリを使わなければ3段階です。
 例えば私の場合プリ+メイン+スピーカーのキャラクターをどうするかについては色々悩みました。今では2階リビングはSV-722+SV-501 SE+Stirling、1階はSV-310+SV-91B+Devonです。キャラクター的に言うとSV310、SV-91B、Stirlingは音を塊で聞かせます。SV-722、SV-501 SE、Devonはどちらかと言うと音を1つずつ分離させる傾向が強いです。私は最初は全てを同じキャラクターで統一させようと思って、SV-310+SV-91B+Stirlingを1階に持って行く事にしました。(従ってSV-722+SV-501 SE+Devonを2階に持っていったのです。) それでしばらく聴いていたのですが、一度試しにと思ってスピーカーを入れ替えたらこれが大正解でした。アンプについては310+91B、722+501 SEの組み合わせは崩さない方が良いのですが、スピーカーとアンプ群については同じキャラクターの場合より入れ替えた方が良かったのです。(これは私の家での結果ですから、どこでやっても同じ結果が出る訳ではないでしょう。)

 例えば前の722+501 SE+Devonの場合音はとても粒子が細かいのですが強いて言えばスケール感が少し足りなかったのです。それに対して310+91B+Stirlingはスケール感はあるのですが、わずかに分離が不足する感じでした。それがスピーカーを入れ替えたらどちらのシステムでも疑問に感じていた事が解決していたのです。(Devonにもう少し欲しいスケール感をStirlingがまかない、Stirlingでは塊になってしまう感じをDevonが粒立ちの良さを補ってくれたのです。)これはそれぞれの部屋の特性によるものですから、どこでやっても同じという訳ではないでしょう。(例えば音が吸われてしまうような和室だったら、とっくの昔にDevonはお蔵入りだったでしょう。オークのフローリングで壁も塗り壁で音をよく反射するから本領を発揮する場があったのです。)私が言いたいのは実際にその場で音を聴いてみないと自分にとって何がベストの組み合わせなのか分らないという事です。ですから自分の手持ちの中から色々の組み合わせを試して新しいセットを見つけるのが楽しみな訳です。

 ただ私は最終的に音楽を聴く事が目的なので、私自身は試行錯誤は本当はあまりしたくないのです。ですからキャラクターをまず聞き取ってできるだけ同じ傾向でまとめるというやり方でやって来たのです。(試聴をしていてもすぐに音などどうでも良くなって、音楽を聴いてしまうのです。)でもいつでもそのやり方が有効ではないという事をつくづく感じました。皆様にも是非色々な組み合わせにトライされる事をお奨めします。
 なんと言っても大事な事は音を素直に聴く事です。自分で勝手に先入観念を作り出して聴いたのでは折角の試聴も台無しだという事です。(今度買ってきた物は良いはずだから、というような思い込みは禁物なのです。)  Topへ

第9回:今までを振り返って(今までの1つのまとめ)

 今までひとりごとに書いたように私のオーディオ遍歴も自分なりに一定の成果が上がりました。その最大の成果は自分のやって来た事に自信が持てた事です。それで何が違うのかと言うと、自分の音が持てた事により他の音に対しても今までよりはるかに余裕を持って対する事が出来るようになったのです。
 まだ自分の個性を確固としたものとして持てないうちはちょっとした違いに過剰に反応していました。今から思えば私が選んで来た物はすべて共通した特質を持っています。自分がそれぞれの時期で良いと思って選んで来た物は、その時期の私の感じ方を体現しているのです。

 私が何を言いたいのかというと、たとえばスピーカーやアンプを替えただけで突然自分の理想郷が出来る訳ではないという事です。自分の出す音は器械が出す訳ではないのです。自分の生活空間の中で自分が求める音を機器の選択や使いこなしを通して引き出してやるのがオーディオの神髄なのです。そこで一番効いてくるのは使い手の音に対する感性であって、同じスピーカーとアンプを使っても出てくる音は人によってまるで違うのです。誰かが使っている物を使ってみるのはとても有効な1つのヒントにはなりますが、それで悩みがすべて解決する魔法の薬にはなれません。私は今TANNOYで求める世界を得られましたが、どなたにもTANNOYをお奨めはしません。私も初めは使いこなせないDevonを相手に苦闘しましたが、そのおかげで今の音を手に入れられたのです。皆様にも縁あって手にされた今の道具の本領をまず充分に発揮させて欲しいのです。その後それを使い続けるか新しい物を手に入れるかはそれぞれの方のご判断です。新しい物に移るにしても今の物の本領が分らずに次の物に移るのは、迷路に入るための特効薬のようなものです。

 その時に最も気をつけて頂きたいのが今の自分の基準を作り上げている自分の経験の限界の事です。今の自分の価値観というのはそれまでの経験を通して得られた物の上に築き上げられている訳ですが、それよりレベルが上の物を使う場合には自分もそれを使うに相応しいレベルに上がらなければいけないのです。そのためにはある期間自分の価値観を新しいレベルに対応出来るように磨き上げないといけないのです。これは一時に出来る訳ではありません。新しい音を聴いて自分の耳をトレーニングして、それから使いこなしを検討し、また更に耳をトレーニングしてまた使いこなしを検討する、というように何度も行ったり来たりしてレベルが上がって行くのです。(レベルが上の新しい楽器を手に入れた時も同様なフィードバックが何回もあるものです。)

 また今まで自分のやって来た事をある程度間をおいて振り返って追試してみる事もとても大切です。たとえば昔使っていたアンプをもう一度聴いてみると思わぬ発見をする事もあります。とかく新しいアンプに変わる時には新しい物の方が全てにわたって良いような錯覚に捕われますが、物事それほど単純ではありません。今まで使っていたアンプに飽きて新しいアンプを新鮮に感じそれを良く感じたにしても、あとで追試してみるとその時感じるほどの差はないという事もよくあります。時間をかけてじっくり来し方行く末を見ないといけないです。  Topへ

第10回:自分の耳で

 ひとりごとで「教えない塾」のお話を書きましたが、オーディオについても同じ事が言えます。インターネットの評判を検索し回って全てが分ったような気になるのはとても危険です。自分の耳で自分の出している音を聴いて、自分で問題を見つけてそれを解決するのでなければ自分の気に入る音を手に入れる事など出来ません。インターネットに書かれている事は自分ではない正体の分らない他人の印象でしかないのです。例えば車についてインターネットに書かれている事を信用して買いますか?参考にする事はあってもインターネットの評判が購入の決め手になるという事はないでしょう。それなのに何故オーディオだと人の評価をそんなに信用するのでしょう。良い音を得ている人は皆それぞれ大変苦労しているものです。
 実力を発揮していない環境の音を聴いてその製品が良くないと言うのは聴き方に問題があるとしか言えないのではないでしょうか?例えばTANNOYのスピーカー、セッティングの肝(音の軸が耳の高さに来るようにする事。)を守らなければその良さは分らないものです。ただ漠然と置いただけではTANNOYの良さなど絶対に発揮されません。
 演奏と同じで自分の出した音を聴いてこの音ではおかしいという事を感じられなければ、人を納得させられる音など出せません。自分の音に問題がある事に気がつく事が長いオーディオのそして演奏遍歴のスタートなのです。(プロの演奏家でその過程を経ていない人など1人もいません。今の自分としてはこういう音が出せる、でもここがこう気に入らない、という事が言えなければいけないのです。今自分のできる事は確保しながら、それに甘えずに更に先を求める必要があるのです。なぜなら自分の求める音は常に変わって行くものだからです。変わらなくなったらその人の進歩はそこで止まったのです。)
 自分の音がどこかおかしいと思ったら、最初にやるべき事はどこがどう気に入らないのかをハッキリ捕まえる事です。何かおかしいという程度ではダメなのです。どこがどうおかしいかがハッキリ言えないうちは次のステップに進む準備が出来ていないのです。その問題点が煮詰められれば問題の解決法は自然に見えてきます。皆さん是非ご自分の耳を信用して、その耳の訴える事を先入観なしに無心に聴いて欲しいのです。他人の感想など信用して損をするのは皆さんご自身なのです。  Topへ

第11回:新しい世界へ

 今まで私は直熱3極管300BでTANNOYを鳴らす事に没頭してきました。そしてその事については一応の成果を挙げられたものと自負しています。ですが去年の夏ごろから今まで手を出さなかった5極管ビーム管、そしてプッシュプルにも手を出し始めました。今まで私の求める音は直熱3極管シングルでないと出ないものと思っていましたが、Rogers LS5/9をSV-4 Ver.2で鳴らし、管をGEC+Telefunkenに替えたらTANNOYとRogersがとても似た音を奏でてくれ驚きました。方式が違っても鳴らし手が同じだと同じような音に結局は収束して行くのだという事を知らされたのです。(考えてみれば当たり前です。私が良いと思う音にして行こうとしているのですから、方式に関係なく目的地は同じです。)方式が違って出て来る音が違っているうちは、まだ追い込み方が不充分なのです。聴いてどこか自分の心に引っ掛かるものがあったら、それを最後まで追い込むと初めて自分の音が見えてきます。
 ここら辺の呼吸は楽器や弓についても全く同じです。楽器も本当に弾き込めると最後は弾き手の音になります。弾き手が喋っているのと同じように鳴るのです。

 楽器と弓を3つずつ、アンプを5つ、スピーカーも5つを色々な組合せで弾いた私が最後に到達した結論は「音は人なり!」です。 安い物であっても人の心を打つ音は出せます。そして決して安い事がハンディにならないように出来ます。
 今まで直熱3極管シングルに固執してそれを自分の物にすべく努力してきたのは第一段階、それを一応果たせて私もやっと色々なものに対して気持ちの余裕が持てるようになりました。
 それと同時に演奏の方も今まで以上に自分の本領を出せるようになりました。私にとっては演奏とオーディオは表裏一体のものでした。 Topへ


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